現地法人職場マネ−ジメント
【ゐ】 育成は 焦らずあわてず 諦めず

      我々日本人出向者の最大の任務は、タイ人へのノウハウの移転である。
     したがって人材育成は最重要課題であるが、信頼していた人に裏切られること
     も多く、日本人マネ−ジャ−が相手をどのように考えるかにより、育成への対応
     が変わってくる。
      即ち、タイ人を育成するときの一般的弊害として次の2点を上げることが
     できる。
   (1)教わった重要なことは他人へは絶対に教えず独り占めする。
   (2)日本人からみると、タイ人はすぐ転職してしまうから技術の肝心な部分は
      教えない。
      タイ人側も技術を身に付けると自分を高く売り込み転職してしまう。
     この悪循環の繰り返し。
     私の場合は、性善説に元づき対応したが今のところ特に(1)(2)の問題はな
     かった。
      なお、焦らずあわてず 諦めず というのは特にワカ−に対していえることで
     地方の農村でのんびり育った子女がほとんどであり、都会に出てきてクワを
     半田ゴテに持ち代え、まったく新しい生活環境で新しい仕事をスタ−トするので
     あり、多少のもたつきは大目に見て、諦めずに育成することが望ましい。
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【む】 矛盾ある 悪い制度も 歴史あり

      本件に関しては、所報(バンコク日本人商工会議所発行)1992年11月号
     に載って記事を紹介する。
     その内容は、新任の社長が赴任してきて従業員のために各種改善を実施した
     が、結果としてその行為が失敗であったという事例が載っており、下記のアドバ
     イスがあった。
      「現地に来たからには何かをやりたいと言うはやる気負いは抑え、気長に
     対応したい。
      問題点があるとはいえ、現状がそうなっているのは、それなりの理由や背景
     があるはずである。
     派遣者はそれを正確に理解してから、次の一手を考えたい。その点で、前任者
     との引継を十分に行うことが大切である」。
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【き】 給料を 皆で見せ合い 泣く子あり

      4月には昇給した新な給料を渡す。この時ワ−カ−は給料表をお互いに
     見せ合い、相手と比較し泣きだす子もいる。90年4月などは隣の会社
     と比較し当社にはAランクに査定された人がいないと騒いだ。
      なにしろ隣の工場のワ−カ−の給料や賞与がすぐ判るほどオ−プンである。
     テクニシャン以上についても見せ合うことはしていないが、お互いに情報を
     交換し、A〜Eの査定のうち誰がどのレベルになったか知っている。
       査定に関するトラブルを少なくするため、各人と面接をし過去1年間の業務で
     良かったこと、不足していることを指摘し、査定のランクを具体的には示さ
     ないが、本人と話し合った上でサインを取っている。なおタイ人に言わせると、
     査定について事前に本人が納得するのがインタ−ナショナル的スタイルで、
     日本のように査定について本人との話合いがまったくないのが異常だそうで
     ある。
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【ろ】 論より ワ−ニングレタ−

      長い間には、会社にとって好ましくない人物も現れ、会社としては解雇する
     ことも有り得る。解雇に関し裁判で争った場合、「作業態度が悪い」・「社内
     規則を守らない」等を口頭で言っても、証拠が何もなければ会社は裁判に負ける。
      将来のことを考え社内規則違反には原則として、ワ−ニングレタ−(同じ
     違反を再度行ったら首にするという警告書)を取っている。
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【と】 綴じしろを 空けろと 指導3年間

      タイ人は小さい時から物を大切にするように仕付られているようで、それは
     た大変よいことだと思っている。ただし、ドキュメントを作ったりデ−タ−取る
     とき、紙を大切に使うのはよいが、紙の左端から右端までぎっしり書きファイル
     すると見えなくなってしまうことがよくあった。そのため、左側2pは綴じしろ
     を空けろと指導してきたが、まだ習慣にはなっていない。
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【ち】 沈黙は 誤解を招く 異国では

      日本人同士であれば、風習・習慣も理解しており、まして日本語で話せば
     言葉のニアンスで感情も自動的に伝えることが出来る。
      相手が外人の場合は語学力にもよるが、意志が伝わったと思っても実際は
     伝わっていないことが多い。
      仕事で例をとれば教えるとすぐ「解った」と返事は返ってくる、しかし、
     誤って理解していることがあり重要な事は「何が解ったか」確認した方うが
     よい。
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【か】 階層で 扱い違う タイ社会

      タイ国には日本のような、農地改革や財閥解体の歴史はなく、また遺産相
     続税もないそうで、金持ちは限りなく金持ちだそうである。したがって日本の
     ように殆どの人が中流意識を持っている社会と異なる。会社内に於いても、
     学歴により、ワ−カ−、テクニシャン、エンジニアと3階級あり、ワ−カ−は
     日給で他は月給等、給料システムも異なる。したがって仕事内容や責任範囲を
     階層別に明確にする必要がある。
      なお、階層に対する扱い方は、日本では経験がなかったので始め混乱もあっ
     たが、最近は落ち着いて来た。特に当社では、PEとPDにエンジニア、テク
     ニシャンがおり、待遇面の比較が常にあり、一方のみ改善すると他方より必ず
     クレ−ム出る事を記憶しておいた方がよい。
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【そ】 損したと 後悔するなら 寄付するな

      この項はタイ人の風習や気質が解らないと理解出来ない。したがって私の
     知っているごく浅い知識であるが紹介する。
     タイ人の94%は仏教徒であり、仏教(小乗、上座仏教)は冠婚葬祭のみなら
     ず、大衆の日常生活の価値・道徳感にも大きな影響を与えていると言われて
     いる。
      たしかに僧は厳しい戒律の中で修行を重ねるが、大衆にとっての仏教は
     寺院や僧に対する布施が主体のようだ。
      布施をすることによりプン(徳)を得、その多寡によって幸福が決定されると
     信じている。
      一方僧はタンプン(布施)されることによって感謝の念を持つことはなく、逆に
     タンプンの機会を与えて上げたとういう意識である。
     どうも寄付しても、タイ人からすると感謝というより金持ち日本人から寄付を
     受け取って上げたという意識があるようだ。
      また、この国は金持ちが貧乏人に寄付することは当り前のようで、なにも寄付
     しないと「キニィヨウ」(ケチ)な人と言われる。
     したがって私の場合も感謝されることは期待しないが、人間関係が向上し
     仕事がスム−ズにいくことを期待し、パ−ティ−や旅行等実施の場合は気前
     よく寄付している。
      その金額の決め方はよく考えると、出し過ぎたと自分が後悔しない程度が
     基準額である。
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【な】 何でもかんでも ボ−ルペン 後であちこち真っ白け

      ドキュメントを作ったりデ−タ−を取るとき、タイ人は必ずボ−ルペンで
     ある。別にボ−ルペンで書くこと事態は特に問題ないが、提出されてくる
     資料は、書き間違いをあちこち所ろかまわず白く塗ってあり見ていて
     イライラする。
      またそれをコピ−するので白い粕がゼロックス機のガラスにもこびりつき
     コピ−も汚くなる。
     したがって内部資料は鉛筆で問題なく、その方が効率のよいことを指導して
     いるが、あまり改善されていない。ボ−ルペンの件を過去にタイ人に聞いたら、
     小学校、中学校までは鉛筆を使用するが、高校以降はノ−トをとるのも試験も
     全てボ−ルペンだそうである。
     したがってテクニシャン以上はボ−ルペンが習慣になっているようだ。
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【ま】 魔法じゃない QCCは 手段だよ

      これはタイ人全体にいえることだが、QCCの意味を勘違いしているような
     気がする。
      すなわち日本製の物は品質がよいことは誰もが認め、その高品質にQCC
     等の小集団活動が貢献していることも知っている。
      その知識だけが先行しQCC活動を行うと聞いただけで、その活動が魔法の
     杖のごとく飛躍的に品質が向上をもたらすと考えている者がいる。
     実際は仕事に直結した目立たない地味な活動であると教えても、QCCと
     仕事を別なものと考えなかなか理解されない。
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【こ】 コンピュ−タ− 入力出来れば 文化人

      当社のパソコンは殆どがPC−98であり、一太郎、ロ−タス1−2−3は
     日本語版であるが、タイ人は器用に使いこなし事務効率化に貢献している。
     ただし品質関係の分析等で、頭を使って手で書けと私が指示してもパソコン
     で行ってしまう。
      その姿を見ているとコンピュ−タ−を使用することに生きがいを感じ、入力
     出来れば文化人または現代文明から取り残されないと感じているようだ。
       経済学に「後発性の利益」という言葉があるそうだ。それは「遅れて
     経済発展の過程に参加した国々は先発組が試行錯誤の末に獲得した技術・
     ノウハウを吸収することにより急速な発展を遂げることが可能」という
     意味である。
      前述の件は、手書きにより問題を把握・反省するプロセスが大切であるが、
     こちらの若者はどうもPCで出来ることをわざわざ教わる必要がないという
     態度である。
     このパソコン使用も「後発性の利益」の一環であろうか。
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【て】 電話3秒 物は2ヶ月

      部品の発注もれ、誤送付等の問題は、タイ国から日本へは直通電話が
     通じるので3秒もあればコンタクトすることができる。
      しかし、幾ら便利になり数分で情報を伝えることが出来ても、それから物を
     集め手続きふんで出荷すれば、やっぱり2ヶ月はかかる。
      世界が狭くなったと言ってもそれは情報の話で具体的距離は同じである、
     発注側も送付側も,ミスは少なくしたい。
  
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【す】 ストライキ ディスコダンスに 踊らされ

      1992年6月12日は赴任期間中で最大に記憶に残る事件が起きた。
     それはストライキの発生である。前の日まで普通に仕事し、事前通告や
     要求書があったわけでなく、朝出勤したらワ−カ−が会社の前に座り込み、
     大きなスピ−カ−を設置し外部から応援に来たと思われる人が演説していた。
      始め何が起きたか分からずドライバ−に何事かと尋ねたら、ドライバ−は
     事前に知っていたようで隣の会社がストライキを初めたとのことで、当社は
     関係ないと言われ取り合えず安心して会社の中に入った。しばらくしてテク
     ニシャン以上は出勤して来たが、ワ−カ−は来ないのでAMGに呼びに行かし
     たが、ワ−カ−は一緒にストに入るとのことで無駄であった。会社名が異なり、
     またワ−カ−数も300人対30人と非常に小さな規模であるが、同じ系列
     で一つ屋根の下にある会社であり同一行動もやむおえず呼び戻しは諦めた。
      背景については、AAFLI(アジア・アメリカ自由労働協会、米国政府と
     労組AFL−CIOにより、途上国における民主的な労組の育成・援助を目的
     としてつくられた組織)の支援により推進されたと言われている。
    (日本人いわく、米国の形を変えた日本タタキ!!)
     当社のあるナワナコン工業団地では16社(内日系10社)ほど、ストライキ
     に見舞われた。現地人の話を聞いていると明日はどの会社がストにはいる等
     噂し、何故かその通り実施されていた。我々日本人は非常に深刻に受け止め
     ていたが、タイ人は単なるブ−ム程度に考えているようだった。労働組合連合
     の強力なバックアップで行われ、ごく一部の従業員は積極的に参加していたか
     もしれないが指導力はなく、上部組合の用意したテントに座り、上部組合の
     演説に酔い、また演説の合間にはボリュウムを目一杯上げたスピ−カ−より
     流れるデスコメロディ−に合わせ踊り狂っていた。我々から見るとただ外部の
     扇動に踊らされている感じに取れた。
      外部の扇動とはいえ、従業員がそれにのったことは事実であり、騒動の中心
     人物は今後とも注意深く監視するとともに、従業員とのコミュニケ−ションの
     強化を図っている。
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